年々リスティング広告の難易度が上がっています。
とくにコンプレックス系商材ではこの傾向が顕著。競合もデジタルマーケティングの重要性を理解しており、Web広告を始めるケースが増えたためです。
激戦区の分野でリスティング広告を実施するなら、正しい方向での運用は必須。クリック単価が高いために、施策の一手を誤れば、すぐにCPAが悪化します。
うまくいかないならボトルネックを見つける。すぐに課題を解決し、その上で適切な施策を施すこと。この手順を守ることが大切です。
今回は「育毛クリニックへの集客事例」を紹介します。
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育毛クリニックの集客
「思った以上にリスティング広告の成果が出ない・・・。他のクリニックはたくさん来院予約があるのに・・・。」
育毛クリニックの経営者の方からご相談頂きました。現在は代理店に運用を依頼しているとのこと。当初はパフォーマンスに満足されていたようですが、ここ一年は獲得件数が減ってきた模様。
HPからのカウンセリング予約をCV地点に定めています。
更に来院に繋がっても契約に至らないケースが増え、運用にご不安がある様子でした。繁忙期は7月~9月なのですが、8月の来院件数は8件。前年度の同月は28件であり、4分の1にまで下がってしまったのです。
このクリニックはリスティング広告の目標を以下に定めていました。
- 広告費用 : 270万。
- 来院数(CV数) : 30件。
- CPA : 8万円。
そして実際の成果(過去一年の平均)が次です。
- 来院数 : 11件。
- CPA : 24万円。
明らかにCPAが高騰していました。カウンセリングの来店も減り、代理店の切り替えを決意されたわけです。
「ウチはWeb広告をメインに集客しているので、調子が悪いと経営に響くんですよ・・・。来院数を一年前に戻せるなら運用をお願いします。ただ改善されなければその時点で終わりにさせてください。ウチにとって死活問題ですから。」
代表者に強く念を押されました。私は「難易度の高そうな案件だな」と感じ、過去データを一式頂きました。また分析の精度を上げるために、現場の方のお話も伺うことにしたのです。
現状を把握した後「よし、やるか」と決意し、レポートファイルを開いて分析作業を始めました。
既存アカウントの課題点
運用のパフォーマンスが下がってきた原因は何だったのか。そして来院者の質まで下がってきたのはなぜでしょう。
先に結論を言うと、最適化を図る途中で、接触するターゲット層がずれてしまったのです。大きな原因は以下の2つ。
・媒体の最適化が進んでいなかった。
・不要な検索語句を拾っていた。
それぞれ見ていきましょう。
媒体の最適化が進んでいなかった
最初に気がついたのは媒体別の予算配分です。状況を整理しましょう。
この案件で使用している媒体はGoogle広告とYahoo!広告。代理店が運用をしていた期間は約2年。以前はヤフーを中心に攻めていたのですが、ここ半年はGoogleに多くの予算が寄せられていました。
ちょうどこの時期と、契約率が下がったタイミングが一致したのです。
なぜ前任者は予算配分を変えたのでしょうか。それはGoogleの方がパフォーマンスがよかったためです。管理画面上では。しかしアカウント上のCVはあくまで来院予約であり、本当のゴールは育毛サービスの契約です。
実はGoogle経由では若い方の来院が増えてしまい、以前よりも見込みのある反響が減っていたのです。一体どういうことか。実はこのクリニックの顧客層は20代後半よりも上であり、若すぎる人ではありませんでした。
Googleのプラットフォームは巨大であり、若いユーザー層も多くいます。それゆえターゲットからずれた層に広告が届けられていたのです。それも多くの広告予算で。
結果はアカウント上でCVに繋がっても、契約に至りにくい層を送客してしまっていたわけです。要するに最適化の方向にズレが生じていたのです。
不要な検索語句を拾っていた
大きなボトルネックがもう一つ。それは検索語句の拡張により、不要なワードで広告が表示されていた点です。順を追って見ていきましょう。
既存アカウントでは部分一致を使っており、「育毛」「発毛」「AGA」といったワードを選定していました。その結果、「育毛剤」「チャッ○アップ」といった検索語句まで拾っていたのです。何が問題か分かりますか。
これらは育毛剤に関するキーワードであり、育毛クリニックを検討するユーザーが検索するものではありません。
育毛剤を購入するユーザーは、直近では育毛クリニックを検討しない傾向にあります。まずは手軽に買える育毛剤を試すからです。
つまり来院に繋がりくいユーザーへ接触していたのですね。
育毛分野におけるリスティング広告の市場は激戦区。そのためクリック単価が高騰しています。実際に既存アカウントの平均クリック単価は700円でした。この状態で不要なユーザーへ接触するとどうなるでしょう?あっという間にCPAが高騰しませんか。
リスティング広告の競争は年々激化しています。この状況では大きく一手を誤ると、そこを起点としてパフォーマンスが下がる。今回はクリック単価が高い上に、成果に繋がらないワードでも広告を届けてしまいました。その結果がCPAの悪化に繋がったわけです。
一年前の平均クリック単価は400円ほど。これでも高いですが、育毛クリニックの許容CPAは高いため、この範囲なら耐えられました。したがって以前は支障が出なかったわけです。
実施した改善策
それでは私が行った改善策を見ていきましょう。
本件で意識したのはまずボトルネックを解決すること。そしてCPAを担保しつつ、運用にブラッシュアップをかけ、質のいい集客体制を構築することです。この考えのもと、主な施策として以下を実行しました。
・媒体別の最適化。
・除外キーワードの設定。
・絞り込み、完全一致の利用。
・部分一致の活用。
・ロジカドの利用。
・アフィリエイト広告の導入。
この7つ。具体的に見ていきましょう。
媒体別の最適化
まずはヤフーに広告予算を多く移しました。
前述した通り、スポンサードサーチの方が感度の高いユーザーに接触できていたゆえ、配信比率を以前と同じにしたわけです。
もちろ必ずうまくいく保証はありません。そのため1ヶ月半ほどのテスト期間を設け、現場の方にフィードバックを頂くことにしました。結果はどうか。カウンセリングの体感的にも悪くなく、契約率が向上(戻った)したのです。
5人に1人契約するペースが、3人に1人は契約するようになりました。高額サービスは1単位の売上が大きいので、契約率が上がるだけでビジネス展開が大きく変わります。
同じリスティング広告でも、Googleで成果が出やすい場合もあれば、今回のようにYahoo!と相性がいいケースもある。よりパフォーマンスが見込める箇所に予算を寄せるのが正しいやり方です。
媒体の最適化が進めば、運用展開がスムーズになることに異論はありません。
ローカルビジネスの案件では、一度現場の方と擦り合わせをするといいでしょう。これだけで運用側と現場側の齟齬を減らせます。その結果が最適なアウトプットに繋がるのです。
除外キーワードの設定
除外キーワードの設定をしました。
今回CPAが高騰したのは、不要なワードへ拡張されていたからでしたね。それゆえ配信されていた検索語句の中で、育毛剤に関するものは全て除外。無駄な広告表示を防ぎました。
除外を徹底的に突き詰めてしまうと「機会損失が起きる」と思う方もいらっしゃるかも知れません。しかしこれで良いのです。解説しましょう。
この育毛クリニックの来院予約は、夜遅い時間に発生しやすい特徴があります。
上記はコンプレックス系分野の共通事項。夜遅くにひっそりと見込み客が情報を調べ、CVするパターンが存在します。
しかし拡張されるワードが多ければすぐに広告費を消化してしまいます。実際に既存アカウントでは、毎日夕方から18時くらい迄に日予算を使い切っていました。それならCVに繋がるキーワードで、ずっと広告を表示し続ける方が理にかなっていませんか。
つまり除外作業を行うことで、CPAの高騰を防ぎつつ、配信時間の調整まで進んだのです。結果、運用に良い影響を与えたことは言うまでもありません。
参照リンク:
Google広告の除外キーワードについては、以下の記事で解説しています。併せてご参照ください。
絞り込み、完全一致の利用
絞り込み一致、完全一致のマッチタイプを局所的に活用しました。
「東京 育毛」「東京 発毛」「東京 AGA」といった、来院に繋がるワードに絞って使用したのです。
前述したように育毛分野のクリック単価は高騰しています。それゆえCPAを担保するには入札を下げざるを得ません。しかし入札を下げるとビジネスチャンスも減ります。掲載順位が下がるので、広告が目に付きづらくなるためです。
ではどうするべきか。それは成果が見込めるキーワードの入札を高め、部分的にインプレッションを増やせばいいのです。
この時クリック単価が高騰しますが問題ありません。CV率が良いので、CPAを担保できるからです。
つまり検索語句の拡張が起きないマッチタイプを利用し、CVワードに適用範囲を狭めることで、効率よく運用を展開できるのです。パフォーマンスはCPAで5万以下を切りました。上々でしょう。
上記を実施したらそこからは細かい入札調整が必要。またCVワードを見つけたらすぐ追加しましょう。小さなプロセスの積み重ねがものを言います。
参照リンク:
なお絞り込み一致については下記にて解説しています。ご参照ください。
また完全一致に関しても以下に内容をまとめています。併せてご参照ください。
部分一致で弱めに配信
部分一致を活用しました。
育毛クリニックへの集客ではCVワードが多岐にわたります。それゆえ絞り込み一致や完全一致ではリスクこそ減るものの、機会損失が起きることも否めません。つまりCVの取りこぼしを防ぐために部分一致を利用するわけです。
また入札を弱めて掲載順位を下げました。根拠を説明しましょう。
育毛サービスは高額であるゆえ、見込み客はクリニックの選定で失敗したくない、という気持ちを持っています。言い換えると気軽に契約できる商材ではありません。そのためしっかりと情報を吟味するために、下位にある広告もクリックする傾向があるのです。
このような背景があり、ニッチなCVワードでは入札を弱めても、成果に繋がるわけです。更に不要な検索語句を除外したことで、部分一致の精度が向上しました。
商材の特徴に合わせて、かつデメリット部分を防げば、部分一致はプラスに働きます。結果はCPAを7万円以下に収められました。獲得CV数は一番。順調な経過ですね。
参照リンク:
掲載順位を下げて運用するプロセスは以下で解説しています。ご参照ください。
なお部分一致については下記にて内容をまとめています。ご参照ください。
ロジカドの利用
使用媒体を一つ増やしました。ロジカドです。
ロジカドとは
DSPサービスの一種。
活用の目的は一つ。リターゲティングの効果を補強し、CVの取りこぼしを防ぐことです。育毛サービスではGoogle広告のリタゲは行えません。コンプレックスを想起させるゆえ、審査に通りにくいのが理由です。ヤフー広告なら活用できますが、YDNと提携しているメディアでしか追客できません。
一度サイトに訪れたユーザーはサービスへの検討度が高い。それゆえ多くの配信面でアプローチするのが望ましい。そこで役立つのがロジカドなのです。コンプレックス系商材でもリターゲティングを使えるからです。
ロジカドでは入札を強めて配信。パフォーマンスはYDNのリターゲティングと同等でした。つまり既存アカウントの成果を悪化させずに、CV数を増やせました。
アフィリエイト広告の導入
アフィリエイト広告を実施しました。口コミ対策が目的です。
アフィリエイト広告とは
広告主の立場で見ると、第三者に商材の記事を書いてもらい、認知を広げて購買に繋げる広告のこと。
このクリニックでは二年間、月に300万円近くの広告費をかけていました。その結果、クリニック名で検索をかけると「●●クリニック 口コミ」「●●クリニック 評判」といったワードで、サジェストが表示されるようになったのです。
サジェストとは
検索をかけるタイミングで検索されやすいワードを自動表示する機能。
なぜか。それは広告で接触したユーザーが評判を知りたくて検索しているからです。しかしこれらのキーワードに対して、何も対策がされていませんでした。高額サービスでは口コミが無視できません。それゆえアフィリエイト広告を導入し、多くのメディアにサービス内容を取り上げてもらいました。
具体的には「料金体系」「今までの事例」「どんな方に効果があるのか」といった見込み客が最も気にする箇所ですね。これらをネット上に公開し、不安を解消させることに繋げたのです。
もちろんすぐに成果が出るわけではありません。しかし長期で考える施策に取り組むことも、これからのマーケティング活動では求められます。とりわけ高額サービスでは。
改善の結果
改善策を実施した結果は以下です。
- CV数 : 36件。
- CPA : 7万以下。
来院数が大きく増え、獲得単価は3分の1まで下がりました。クライアントに成果を認めて頂き一件落着です。
まとめ
今回は「育毛クリニックへの集客事例」を紹介しました。
運用がうまくいかなくなったらすぐにボトルネックを見つけること。そして問題を解決し、正しい方向へ施策を展開してください。それには「知識」と「経験」が求められます。
しかし商材に合った広告戦略を展開できれば、大きなリターンが返ってくる。これこそリスティング広告の醍醐味でしょう。