「指名ワードで配信するべきですか?」
リスティング広告の運用に携わっていると、上記の質問を頂くことがよくあります。
広告主の希望は、効率よく広告予算を使うことです。ですから、わざわざ費用をかけてまで、自然検索経由でCVできる層へアプローチするべきなのか?と感じる方が結構いるのです。
上記は一見、最もらしい考え方です。しかし、先に結論を言うと、指名ワードでは必ず配信をしましょう。出稿することで得られる効用が非常に大きく、もはや活用しない理由がないとすら言えるからです。
以下は、指名ワード単体で見込める配信結果です。
- CPAが大きく下がる。(クリック単価が低く、CV率が高いから)
- CV数が底上げされる。(ビジネスロスを防げるから)
こんなにパフォーマンスの良いキーワードは、他に存在しません。
また、指名ワードを活用することで、施策の幅を広げることも可能になります。広告の配信量を増やして、最後は指名ワードでCVに繋げる流れが確立できるためです。
高単価の商材、検討期間の長い商材であるほど、上記の配信スキームを活用することは必須になってきます。
今回は「指名ワード(自社ワード)」について徹底解説します。
CONTENTS
指名ワードとは
指名ワードとは「自社名」や「商材名(ブランド名)」のキーワードを指します。
それ自体が特定のものを想起させるワードや、固有名詞に近いワードと考えれば、イメージが進みやすいでしょう。
指名ワードで配信するメリット
指名ワードで配信するメリットを見ていきましょう。
CV率が非常に高い
指名ワードは、CV率が非常に高いです。
この点に関しては、他のワードと比べると、その威力を理解しやすいです。まず、リスティング広告の特徴は、検討層へアプローチができるので、平均的にCV率が高いことです。しかし、CVしやすいワード(検討層が検索するワード)でも、CV率は大体2%くらいに落ち着いてきます。
もちろん、Web広告を実施したことがある方なら、この数字でも十分に高いことは理解できると思います。しかし、指名ワードは2%どころではありません。10%以上を見込めます。
なぜ、こんなにCVしやすいのでしょうか?それは、指名ワードを検索するユーザーの心理を考えることで、理解が進みます。
まず、商材名やブランド名を検索することは、問い合わせや購入等の、何かしらのアクションを起こすための意思が「明確」な状態であると考えられます。
言い換えると、「検討段階」から更に意欲が促進され、「購入をしよう!」と決意したユーザーが、指名検索を行います。ですから、買う気満々の見込み客へアプローチをしていることに等しく、10%以上のCV率を担保できる、というわけです。
これだけ考えても、指名ワードへ入稿しないという選択肢自体が、ナンセンスであると言えるでしょう。
逆に、10%以上を担保出来ていない場合は、配信設定に問題があります。大抵の場合、部分一致の拡張で余計な検索語句を拾ってしまい、費用対効果が圧迫されていることが原因です。
CPAが下がる
指名ワードで配信することで、CPAを大きく下げることができます。
この理由には複数あります。一つは、指名ワードではクリック単価を低く抑えることが可能だからです。
少し、リスティング広告の仕組みを整理しましょう。クリック単価は、競合がどのくらい入札をしているのか?によって、値が大きく変わります。
競合が多い場合は入札が集中するので、自社も入札を上げなければなりません。このシチュエーションでは、クリック単価は高騰します。
逆に、入札する企業が少なければ、低い額で広告枠を買い付けることができるため、入札を弱めることで、クリック単価は下がるのが仕組みです。
話を戻しましょう。自社の指名ワードに入札してくる企業はどのくらいいるでしょうか?大半の場合、一般的なワードに比べて、ほとんどいないのが現実です。
逆に、自社の指名ワードを独占できていない場合は、機会損失が発生します。他社が自社の指名枠に入札する理由はいくつかありますが、いずれにせよ、自社で独占するべきです。この理由については、後述します。
ですから、指名ワードでは低い額での入札が可能になり、クリック単価を大きく下げられるのです。
さて、クリック単価が下がると、リスティング広告の運用に好循環が働きます。下図をご覧ください。
数式の通り、同時にCPAも下がるからです。
また、指名ワードではCV率が高い傾向にあることは先述の通りです。ここで、先ほどの数式をもう一度確認ください。
CV率が高まると、同時にCPAが下がることが分かります。
内容をまとめると、自社ワードの特性として、次のことが言えます。
- 指名ワードはクリック単価が低いので、CPAが下がる。
- 指名ワードはCV率が高いので、CPAが下がる。
- 上記の二つにより、CPAを大きく下げることができる。
ここまでパフォーマンスの良いキーワードは、指名ワード以外に存在しません。
私は、指名検索が大きく見込めるシチュエーションでは、次のプロセスを実施します。
- 一般ワードで配信する。(CPAがやや高騰する)
- 指名ワードでCVを獲得。(CPAが下がる)
- CPAが下がったので、新規施策にチャレンジする。(CPAがやや高騰する)
- 再度、指名ワードでCVを獲得。(CPAが下がる)
- 上記のプロセスを繰り返す。
- リスティング広告の成果が向上する。
自社ワードを起点に施策の幅を広げれば、CPAを悪化させずに、より多くのCV数を獲得できます。
機会損失を防げる
指名ワードを活用することで、機会損失を防ぐことができます。
先述の通り、指名ワードはクリック単価が低い上に、入札している企業数も少ないのが特徴です。しかし逆に言い換えると、どこかの競合が入札をしてしまえば、割と簡単に広告が上位表示されてしまうことも事実です。
このシチュエーションにおいて、自社が指名ワードへ出稿しなければ、どうなるでしょうか?当然、競合の広告が目に入るので、クリックを持っていかれやすくなることに異論はありません。更に、万が一CVが起きてしまったら、競合に顧客を渡してしまったようなものでしょう。
本来は、自社が獲得できたはずの新規顧客だからです。
実際に、上記のパターンはよく起こり得ます。業界で商材が認知されている場合、またはかけている広告費が多い場合に、起こりやすい事象です。
以下は、リスティング広告において最悪なパターンです。
- 一般ワードで配信。(ユーザーの購入意欲が高まる)
- 購入意欲が高まったユーザーが指名検索をする。
- 競合の広告文がクリックされ、競合のコンバージョンを達成。
こうなってしまうと、競合のために一般ワードで配信したようなものであり、無駄な広告費をかけただけと言えませんか。
ですから、指名ワードは必ず配信しましょう。
機会損失を防げる上、パフォーマンスも良いのですから、使わない手はありません。
検討期間の長い商材と相性がいい
指名ワードは、検討期間の長い商材と相性が良いです。
- B to Bの商材(意思決定に時間がかかる)
- 高額な商材(購入を決めるまで時間がかかる)
- 悩みが深い分野の商材(内容がデリケートなので、比較検討を深くする)
これらの商材の特徴は何だと思いますか?それは、すぐにCVが起きないことです。
なぜなら値段も高い傾向にあり、即決できるとは言い難いため、見込み客はすぐに「購入をしよう!」とは思わないからです。結果、時間をかけて比較検討をする場合が大半です。
つまり、リスティング広告で一回接触しただけでCVが起きるほど、甘くはありません。
しかし時間が経過すると、サイトを訪れたユーザーのうち一定数は、商材への購入意欲を高めてくれるものです。その結果、一部のユーザーは指名検索を行ってくれます。
上記の現象は、純粋想起と呼ばれます。 純粋想起とは、何らかの手がかりが与えられたときに、特定のブランドを思い起こせる(思い出す)現象を指します。つまり、日常生活の中で何らかのきっかけがあり、あの商品がやっぱり欲しいと感じ、指名検索を行うわけです。広告で接触した際の商品の印象が強いほど、この現象は起きます。
このシチュエーションで、自社の広告がクリックされれば、ユーザーの意図は明確なのでCVが起きやすいことに異論はありません。
ここまでの内容をまとめましょう。検討期間の長い商材では、指名ワードを活用した戦術が有効的です。
- 一般ワードでアプローチ。(ややCPAが上がる)
- 最後に指名ワードでCV獲得。(CPAを下げる)
指名ワードのデメリット
パフォーマンスの素晴らしい指名ワードですが、デメリットもあります。
検索数自体は少ない
一般ワードに比べると、検索数が非常に少ないです。
言い換えると、指名ワードの検索数を増やすには、認知を増やしていかなければいけません。それには、リスティング広告やディスプレイ広告等を配信し続ける必要があります。
単に、広告を配信すれば良いだけではなく、全体のCPAを担保できるように、バランスを踏まえて配信量を増やす必要があります。運用者の力量が問われる部分です。
また、そもそも商材が全く認知されていなければ検索されようがありません。
全くの「無名ブランド」では効果が期待できないので、ゼロベースで認知施策から始める必要があります。
指名ワードでより効果を出すために
指名ワードの効果を上げるための「考え方」「方法」を見ていきます。
自社ワードはパフォーマンスこそは良いものの、検索数が少ない弱点があることは、これまで見てきた通りです。ですから、成果を悪化させないまま、いかに認知を増やし、最後は指名ワードで刈り取れるかが鍵です。
つまり、指名ワードは単体で施策を考えるのではなく、その他の施策と組み合わせることで、より効果を発揮します。方法としては以下がベストプラクティスです。
・一般ワードで適切に配信ボリュームを増やす。
・ディスプレイ広告で適切に配信ボリュームを増やす。
それぞれ見ていきましょう。
一般ワードで適切に配信ボリュームを増やす
一般ワードでの配信量を適切に増やせば、指名ワードの検索数も増えます。
まず、一般ワードで検討層へアプローチ。
その後、商材を認知したユーザーのうち、一定数が指名ワードを検索してれるようになります。
なお、一般ワードの配信量を増やす際には心がけたいことがあります。それは、単に検索数が多いキーワード数を増やすのではなく、なるべくゴールに近いワードの配信ボリュームを増やすことです。
事例として、ダイエットの通販商材で考えてみましょう。
例えば、「ダイエット」というキーワードは検索ボリュームが非常に多いです。ですが、仮に「ダイエット」のキーワードを追加すれば、後で指名ワードを検索するユーザーが増えるかというと、そうとは限りません。
なぜなら、「ダイエット」と検索するユーザーの心理には色々なモチベーションが含まれており、通販商材に興味を持っているとは限らないからです。
では、「ダイエット 通販」というキーワードの配信量を増やした場合ならどうでしょうか?
前提として、「ダイエット 通販」と検索するユーザーは、通販の商材に興味がある、と考えられることに異論はありません。ですから、一度広告でアプローチをすれば、仮にCVが起きなくても、後で指名ワードで刈り取れる確率が高くなるのです。(他のワードに比べて)
この考え方を踏まえて、一般ワードでの配信ボリュームを増やす場合は、以下を意識することを推奨します。
- ゴール(CV)から近いキーワードを「追加」する。
- ゴール(CV)から近いキーワードの「配信ボリューム」を増やす。
このようなアプローチを取ることで、CVを見込めつつも、取りこぼした際には指名ワードで刈り取りやすくなります。
ここまでの内容をまとめましょう。「一般ワード」+「指名ワード」での配信スキームは以下。
- 一般ワード(なるべくゴールに近いワード)で認知を増やしつつも、CVを狙う。(CPAが高騰しつつも、CVを獲得)
- 指名ワードでCV数を底上げ。(CPAを下げる)
- 結果的に、CPAを悪化させずにCV数を稼ぐ。
ディスプレイ広告で適切に配信ボリュームを増やす
指名ワードは、ディスプレイ広告とも相性が良いです。
認知施策の代表はディスプレイ広告であり、リスティング広告よりもクリック単価が下がるので、やり方次第では、大きな成果を見込めます。
まず、ディスプレイ広告でユーザーにアプローチ。
その後、商材を認知したユーザーのうち一定数が、指名ワードを検索してくれます。
ディスプレイ広告を活用する際に心がけたいのは、「ターゲティングの最適化」「入札の最適化」「クリエティブの最適化」が代表的でしょうか。
この記事は指名ワードに主眼を置いていますので、ディスプレイ広告の考察については避けますが、上記を抑えることで、ディスプレイ広告の効果が上がります。その結果、一度のアプローチではCVしなくても、後に指名ワードで刈り取りやすくなる、というわけです。
ここまでの内容をまとめましょう。「ディスプレイ広告」+「指名ワード」での配信スキームは以下。
- ディスプレイ広告で認知を増やしつつも、CVを狙う。(CPAが高騰しつつも、CV獲得)
- 指名ワードでCVを刈り取る。(CPAを下げる)
- 結果的に、CPAを高騰させずにCV数が底上げされる。
指名ワードで配信する際の注意点
最後に、指名ワードを活用する際の注意点を共有します。
先述の通り、自社の指名枠に他社が入札している場合があるので、この問題は解消しなければなりません。競合の広告が表示されてしまえば、CVを渡してしまうことになるからです。
ですから、指名枠は可能な限り独占しましょう。自社の指名ワードへ入札が行われるパターンには、以下の2通りがあります。
・競合が意図的に入札をしている場合
・偶然入札が行われている場合
それぞれの因果関係と対処法を見ていきます。
競合が意図的に入札をしている場合
競合が、自社の指名枠へ意図的に入札をしているケースがあります。
このパターンは、自社が業界で認知されている場合に起こり得ます。競合(運用者)が他社の広告枠を買う際の思考プロセスは、大体次のようなものだと言えます。
- 効率的にCVを獲得したい。
- 一番パフォーマンスの良いキーワードは指名ワード。
- それならば、有名なブランド(企業)の広告枠に入札すれば、自社に顧客を流せる。
実際にこの考えで競合の広告枠へ入札すると、本当にCVが起きてしまうのです。
入札をされた側からすれば、損失以外の何ものでもありません。
そこで、定期的に自社の広告枠を検索することを推奨します。その際、競合の広告が表示されれば、「指名ワードの除外設定」を依頼しましょう。
大半の場合は、これで解決されますので、競合の広告が消えます。
偶然入札が行われている場合
競合が認識をしないまま、自社の広告枠へ入札をしている場合があります。
原因は「部分一致の拡張」にあるのですが、この現象は、自社の指名検索数が多い場合に起こりやすいです。
分かりやすく理解するために、以下のシチュエーションで見ていきましょう。
- 商材は「英会話スクール」
- 商材名は「英会話CAMP」(仮)
- 月間の広告費用:200万円。
一般的に、月200万円もの広告費を消化していれば、指名ワードの検索数(英会CAMP)もそれに比例して増えます。すると、検索エンジンは、「英会話CAMP」のワードは「英会話関連」の語句であると認識をします。
ここまでは良いのですが、問題は次です。英会話関連のワードを部分一致で設定すると、この「英会話CAMP」の検索語句を拾ってしまう場合が増えるのです。
言い換えれば、競合の英会話スクールが、「英会話」のワードを部分一致で配信すると、「英会話CAMP」の広告枠にも広告が表示されることになります。この場合、「英会話CAMP」の広告枠から、競合の英会話スクールに問い合わせ(CV)が入る、と言うことが起きてしまうわけです。
上記のプロセスは、自社(英会話CAMP)からすれば、機会損失にしかなりません。
ですから、かけている広告費が多い場合は、自社の広告枠の検索作業は必須です。競合の広告表示を確認したら、「指名ワードの除外設定」を依頼しましょう。
除外が行われれば、部分一致での拡張でも、指名ワードは拾えなくなります。
まとめ
今回は「指名ワード」について解説しました。
指名ワードほどパフォーマンスが高いキーワードはありません。しかし、自社ワードは検索数が少ないという欠点もあります。
そのため、指名ワードの特性が最大限に発揮されるように、以下の施策と組みわせることを推奨します。
- 一般ワードと組み合わせる。(適切に配信ボリュームを出す)
- ディスプレイ広告と組み合わせる。(適切に配信ボリュームを出す)
最後に指名ワードで刈り取る流れを構築できれば、施策の選択肢が広がり、リスティング広告で多くのCV数を稼げるようになります。